七つ道具 ①Focus|時間を区切る

突然だが、僕の仕事の「七つ道具」を順次紹介していく。本当の目的は文章の練習なので、きっかり7つになるかどうかは分からない。今回は常体で書く。

七つ道具の1つめは、WatchOS用ポモドーロアプリの「Focus」だ。

https://apps.apple.com/jp/app/id975017240

時間管理術「ポモドーロ」とは

「ポモドーロ」とはイタリア語で「トマト」の意味だが、ここでは「ポモドーロテクニック」と呼ばれる時間管理の技法を指す。

簡単に説明すると、人間が仕事や勉強に集中できるのは25分間だという説に則って、「25分間集中→5分間休憩」を繰り返すことにより集中が途切れないようにして、生産性を上げようというものである。この1セットを「1ポモドーロ」と数えて、4ポモドーロ実行したら休憩時間を15分間に延ばす。4ポモドーロをセットにして、これをさらに繰り返す。基本ルールはこれだけなのでシンプルだ。もっと詳しいことを知りたければネットで検索してほしい。

ポモドーロを実践するには、要するに時間を計ることができれば良いので、時計さえあれば不可能ではない。だが、集中してしまうと時計を見ることも忘れてしまう。時間だよと教えてくれればよいのでタイマーを使えばいいのだが、3種類の時間のセットを繰り返すのはいかにも面倒くさい。かといって、狭い机に3つもタイマーを並べるのもいやだ。

そこでiPhoneやAndroid用に、集中時間の開始と終了(=休憩時間の終了と開始)を通知機能で教えてくれるポモドーロ用のタイマーアプリがたくさん作られている。3種類のタイマーは基本機能なので、どのアプリも備えている。さらに付加機能として、集中と休憩の時間の調整、画面デザインのカスタマイズ、集中時と休憩時の環境音、集中時間の集計と履歴などを競っているアプリがたくさんある。

Focusの特徴

「Focus」の特徴は、macOS、iPadOS、iOS、それにApple WatchのWatchOSに対応し、iCloudを介してデータを同期できることだ(WindowsとAndroidには非対応)。つまり、Macを使っているときはMacのアプリで、iPhoneを使っているときはiPhoneのアプリで計測しても、そのすべてを集計できる。

集中と休憩の終了時刻が来ると、通知機能で教えてくれる。必要に応じて、次のタイマーの開始、いまのタイマーの延長、セッションの終了などのボタンを選んでタップする。

集中時間や休憩時間の終了を通知機能で教えてくれる。ボタンをタップすると、次のタイマーが始まる。

Focusの基本機能は無料。初回起動時に有料プランの無料体験が始まってしまうが、これはすぐにキャンセルすればよい。有料プランは買いきりではなくサブスクリプション式で、年間4,500円となかなかの金額である。

なぜFocusか

ぼくがFocusを気に入ったポイントは、Apple Watchに関係する2点である。

第1のポイントは、Apple Watch単体で使えることだ。

集中や休憩を5分延長したり、セッションを終了したりするような操作も、Apple Watchだけで可能だ。

Apple Watchで使う前は、iPhoneで使ったり、使い古しのiPadを常時点灯させて使ったりしていたが、現実にはそれらのデバイスから離れてしまうことが少なくない。ネコがごはんを食べたいといえば出してやる必要があるし、突然雨が降ってくれば洗濯物を取り込まなければならない。宅配便だって来るし、そのついでに台所やトイレに寄ったりもする。こうしてタイマーから離れてしまうと、鳥頭の僕はすぐにポモドーロのことを忘れてしまう。

しかしApple Watchであれば、そういう問題は起こらない。健康管理もしているので、入浴以外の時間はずっとApple Watchを付けるようにしているから、Focusの通知を取り損なうおそれはほとんどない。Apple Watch単体で完結していれば、あれこれ気にする必要がないという利点もある。

第2のポイントは、Apple Watchで文字盤に組み込んで状態を常時表示できる「コンプリケーション」機能に対応していることだ。集中時間を電気スタンド、休憩時間をティーカップのアイコンで表し、時間の進み具合を円形の青いバーで表す。

左上にあるのがFocusのコンプリケーション。図の状態なら、集中のタイマーが7割近く進んだくらいだと分かる。

これなら、集中や休憩の間に残り時間を確認したくなっても、Apple Watchをちらっと見るだけで済む。もしもコンプリケーション非対応だとアプリを起動する必要がある。それに、そもそもApple Watch非対応であればいちいちiPhoneをスリープから復帰させるか、iPhone自体を常時点灯させる必要がある。そういうちょっとしたことが気になると、面倒になって使わなくなるのだ。実際、FocusはiPhoneのウィジェットにも対応しているが、セッションの途中での操作が面倒になり使わなくなった。

これら2つのポイントをクリアするアプリは、実はFocus以外にもあるが、有料プランの広告がうるさかったり、同期の失敗が頻発したりするので、最終的にFocusを選ぶことになった。

アプリを起動すれば、詳細な情報も表示される。しかし、基本画面で状況が分かるのはとても便利だ。

付論

フリーランスの仕事に必要なことは「区切ること」だと思っている。これは、空間、時間、進捗状況などのいずれでも同じだ(勤めの人はそうではないという意味ではない。勤めを辞める前はそういう意識がなかったので、勤めの人にとってどうなのかはもう分からないというだけのことだ)。

たとえば、空間を区切る。僕の場合は原稿をデスクトップPCにインストールしたScrivenerで書いているが、よほど煮詰まった段階にならないと、そのままPCで推敲はしない。推敲するときは、コンパイルしたPDFをタブレットに入れ、別の部屋でやる。たいていは寝転がってやる。なんならベランダや、近所の公園でやってもいい。多くの執筆術の本が言うとおり、執筆と推敲は数日から1週間の間隔を取るのが理想なのだが、僕の環境はそんなに恵まれていないので、ある程度書き終えたらすぐに推敲へ移らなくてはならない。しかし、場所とデバイスと姿勢を変えると意識が大きく区切れて、時間が連続していても原稿に向かう意識がけっこう変わるものである。

ほかにも、服を着替える、何かを食べるときは必ず書斎から離れる、一部の作業はスタンディングデスクを使うなどの工夫をしている。

そもそもポモドーロを導入したのは、時間の区切りを付けるためだった。若いときは、調子が乗ってくると6時間くらい原稿を書き続けることも多かったが、やがて、そういうことをすると次の日にはほとんど書けなくなるようになった。それよりは、余力を残して休憩したり、その日の仕事を切り上げたりするほうが、全体としてはいろいろと都合がよいことに気づいた。

僕の仕事では、数時間やって終わるような案件はまずない。編集なら1つの作業で1週間はかかるし、単行本の執筆ともなれば最短でも3か月はかかる。しかも最近はWeb記事の監修のような小規模の仕事もあるので、その兼ね合いがますます難しくなっている。

そういうときこそポモドーロで時間の区切りを付け、強制的に休憩を挟むと、かえって効率が上がったり、持久力を維持できたりするのだ。

ただし、きっちりとポモドーロを厳守しているかといえばそうでもない。たとえば、ごく短い中断は無視している。ポモドーロ本来のルールからすると、何かの原因で中断してしまったときは、そのセッションは終了したものと見なして、新しいポモドーロを始めることになっている。しかし、宅配便を受け取るだけなのにそのルールを適用しているときりがない。また、仕事内容の区切りによっては、10分近くの残り時間があってもさっさと休憩することもある。刑務所や学校ではないので、ある程度は適当にやっている。

また、Focusの集計機能も使っていない。本や原稿というのはどれも1点ものなので、かかる時間も作業も1点ずつで大きく変わる。たとえば単行本の編集は、本当に修正も指摘もごくわずかで済んでしまう場合もあれば、念校でも数百箇所修正されてきて結局六校まで延びる場合もある。1冊の厚さもさまざまだ。だから「書籍編集1冊に平均何ポモドーロ」などと集計しても意味がない。そういった個人的な理由で、集計機能は使っていないし、そもそも進捗管理は別のアプリでやっているので、Focusの有料プランもいまのところ必要ない。

その日の実績を集計する画面。機能があることは知っているが、普段はまったく見ていない。
タスクを分けて実績を集計することもできるが、これも個人的には不要なので使っていない。

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