キーボードの話(14)──工具と知識を1つずつ積み上げる
自作を始めると決めたら、工具を用意して、ハンダ付けや用語の勉強をする。
この記事はリアルタイムで進んでいるのではなく、すでにErgoArrowsを含めて大小4台の自作キーボードを組み立てた。組み立てはしたが、基盤の設計経験はない。また、電気工作の知識はほとんどなく、ハンダ付けは中学校の授業以来である。その程度のユーザーが書いたもの(買ったもの)ということで読んで頂きたい。
なお、工具セットは遊舎工房でまとめて購入する方法もある。専門ショップによってセレクトされたものということで、安心して購入できる。
→「工具セット」(遊舎工房)
ただし、筆者は商品案内にあるリストを参考にして、あえて1つずつ調べて購入することにした。どさっとまとめて届くのは便利だが、それぞれの工具がどのようなものか、何をするものか、類似品はあるのかなど、スキマ時間に1つずつ調べてから、ショップのカートへ1つずつ入れていった。
また、定番である下記のブログも参考にした。
→「自作キーボードを作るために必要な工具」(自作キーボード温泉街の歩き方)
なお、紹介するのが簡単なので商品のリンクにはアマゾンアフィリエイトを使っているが、筆者は別のショップで購入した。
基礎知識
すでに何度もあげているが、「自作キーボード温泉街の歩き方」は、興味があるものを片端から何度も読んだ。1度では理解できない記事も多いので、それは用語集などを巡回してさらに読み直した。
また、遊舎工房やTalpKeyboardといった専門店の商品紹介やブログ記事もよく読んだ。もちろん分からない用語がたくさんあるので、これも別途検索して調べた。
そのほか、ErgoArrowsやPrimer16のビルドガイド、ユーザーのビルドログなども読みあさった。どんなジャンルであれ、先人の知識や記録というものは本当にありがたい。
用語集
自作キーボードにはさまざまな用語が使われるので、用語集もほしい。筆者は下記のものをよく参照させて頂いた。必要のたびに検索するのは面倒だし、自作キーボードとは無関係のものも出てきてしまうので、やはり情報が1か所にまとまっているのはありがたい。
→「Self-Made Keyboards in Japan」
メーカー品を含めて、キーボード一般で使われる用語も含めると、キーボード専門店が作成したものがある。
→「キーボード用語集」(アーキス)
ハンダ付け、ハンダごて
重要な技術であるハンダ付けについては、YouTubeで解説動画を公開されている方が何人もおられる。3人くらいのものを見ると、段々分かってきたような気になる。なかでも筆者が繰り返し見たのはイチケン氏による長尺のものだ。
→「【永久保存版】はんだ付けのやり方を解説します【はんだづけの原理, DIP部品, 表面実装】【イチケン電子基礎シリーズ】RX-802AS」(イチケン)
そのうえで、まとめとして文章の記事を読むと、予習は完璧だと思う。筆者が精読したのは村田製作所のものだ。
→「電子工作のコツ/はんだ付け」(村田製作所)
これらを踏まえ、PX-280というハンダごてを購入した。自作キーボードでよく使われるハンダごてとは別のものだが、イチケン氏が買えというので選んだ。
goot(グット) デジタル温調はんだごて PX-280 温度調節 【約30秒で350℃まで到達】 【200℃~500℃まで1℃単位の…
こて(先端)はいろいろな形状のものがオプションで選べるが、付属のもので十分使いやすいと思う。
こての台は、同じメーカーの、PX-280用に推奨されているものを選んだ。別のメーカーのものを選んで安く済ませることもできるようだが、こういうものは何かあっても困るのでやめておいた。
ハンダ
環境や人体への影響を考えると鉛が入っていないほうが望ましいが、初心者は難しいことをせず、あえて鉛入りを選べ……というのが定評なので、両方買ってみた。
しかし、PX-280のおかげなのか、筆者のような素人でも鉛フリーだから特に難しいという印象はなかった。鉛入りを買うことはもうないだろう。こての温度は、鉛入りは320度、鉛なしは350度で設定している。
ハンダ吸い取り線
間違えて溶接してしまったハンダに重ねて加熱することで、溶けたハンダを吸い取るもの。筆者は1台目から溶接する箇所を間違えたが、すぐリカバリーできた。最初に買っておいて本当によかった。
フラックス
ハンダ付けを何度も修正しているとぬれが悪くなってくるので、それを補うもの。うまく行っている間は不要なものだが、慣れるまでの間は何度もやり直すことになるので、これも最初に買っておきたい。
フラックスクリーナー
塗りすぎたフラックスや、ハンダに含まれているヤニを洗い落とすもの。ヤニは長期的には基盤腐食の原因にもなるそうだ。ただし、素人の電気工作程度では気にする必要はないという人もいる。まあ正直に言って、これは買わなくてもよかったような気もする。
フラックスクリーナーはびしゃびしゃになるくらい使う必要があるらしいので、吹き付けた後に拭き取るものが必要だ。
ニッパー
初心者こそ、ニッパーはちゃんとしたものを用意したほうがいい。道具は何でもそうであるが、特にニッパーはそうだと思う。
ProMicro付属のピンヘッダはものすごく硬いが、このニッパーを使うと大した力も入れずに気持ちよく切れる。しかも、切った先が飛んでいかない形状になっているので、大量のダイオードの足などもスムーズに処理できる。ただし、絶対に飛ばないというわけでもないので、目を守るものは必ず装着すべきだ。これは100円ショップの工具コーナーにあるもので十分だろう。
後日、100円ショップのニッパーでピンヘッダを切る機会があったが、どうにも硬くてものすごく苦労した挙げ句に挫折した。こういうものをケチってはいけないと心底思った。
ちなみに、ニッパーで切った先が飛んでいく対策に、ビニール袋の中で切るというワザがある。
ピンセット
微妙な扱いが必要になりそうなものはメーカー品を選んだ。先端が尖ったタイプと、力を入れて挟んだときに先端が開く逆作用タイプがあると、いざというときに助かる。
最も普通のものは100円ショップで済ませたが、メーカー品に比べるとぼてっとしていて、扱いやすくはない。
ヤスリ
基盤のフチを処理するときに使う。ヤスリもケチらないほうがいいものだと思う。平形のものがあれば十分だが、形状違いのものもあると将来的には安心かもしれない。
ヤスリがあれば紙やすりはなくてもよいような気がするが、100円ショップのものを用意しておくと、いざというときに助かるだろう。ダイソーでは番号違いのものを10枚組み合わせたものが100円で販売されていた。
マスキングテープ
基盤に貼り付けて、一時的な目印、穴を通したダイオードのズレ防止、暫定的な絶縁など、さまざまな目的で使う。これは100円ショップの工具コーナーにあるもので十分だ。文具コーナーにあるものはオシャレだが短いので、工具コーナーへ行くこと。
エポキシ系接着剤
自作キーボードで多用されるProMicroというマイコンには、Micro USBのものと、Type-Cのものがあり、前者は接着が甘いので、それを補強するために使う。これこそ100円ショップでもいいのかもしれないが、そもそもが保険のようなものなので、念のためメーカー品にしておいた。
液を混ぜてProMicroに塗るときは、爪楊枝を使うのが一般的のようだ。これもあわせて用意しておきたい。
作業マット
ハンダ付けやネジ止めなどの作業を行うためのマット。机の傷を防止し、掃除も簡単になるので、ぜひ最初に用意したい。ワッフル状になっている領域は、極小のネジを扱うときに便利だ。シリコン臭がすごいものがあるらしいので、極端に安いものは避けたほうがよいようだ。
アマゾンでは扱っていないようだが、筆者は上海問屋の「帯電防止・耐熱・断熱シリコン作業マット DN-915870」を使っている。
キーキャップ・スイッチ引き抜き具
英語ではプラーと呼ぶ。キーキャップやキースイッチを手で引き抜こうとすると無理な力が局所的にかかるので、面倒でもできるだけ器具を使うほうがよいと思う。キャップのセットを買うとついてくることがあるが、使いづらいことがある。
キースイッチを直接ハンダ付けするタイプであればスイッチのプラーは不要だが、何台も作る気であれば、いつかはスイッチを交換できるタイプのものを作る可能性があるので、スイッチのプラーも用意しておきたい。
筆者はTalpKeyboardで購入した「KBDfans キースイッチ / キーキャッププーラー(取り外し用工具)V2」を使っている。
ドライバー
普通のサイズのものだけでなく、精密ドライバーも用意しておきたい。高くなくてもよいが、100円ショップのものはすぐ痛むので、避けたほうがよいだろう。
ルーペ
視力に自信がなければ、ルーペがあると何かと便利だ。筆者の視力は0.7程度だが、老眼なので裸眼ではダイオードの向きも分からない。
ルーペを持つのが面倒であれば、メガネの形状になっているルーペメガネが便利だ。筆者はダイソーのものを使っている。精密作業のわずかな間だけあればよいので、これで十分だ。
割り箸
ダイオードの足をまとめて曲げるときや、ハンダ付けのために基盤をかさ上げするときに便利。弁当に付いてきた余りのものでよい。
次回は、筆者にとって1台目の自作キーボードとなった「Primer16」について書く。ビルドログはすでに世の中にたくさんあるので、組み立てた後の利用法を主に書く。