6つのMy禁句 ──『はじめての技術書ライティング』補遺

この記事は、拙著『はじめての技術書ライティング──IT系技術書を書く前に読む本』(インプレスR&D)への補遺です。IT系の技術書という、ごく狭いジャンルの原稿を前提にしていますが、文章を書かれる皆様のヒントになれば幸いです。

『はじめての技術書ライティング──IT系技術書を書く前に読む本』の詳細

この記事では、筆者が原稿を書くときに禁句としているものを紹介します。理由はありますが、どちらかといえば個人的なものが中心です。筆者としては避けたほうがよいと思いますが、そうは思わないというのであれば、そういう流儀もまたよいでしょう。なお、「体言止めを避ける」のような、どんな作文術の本でも紹介されているものや、書籍で紹介しているものは省略しています。

自分の原稿を振り返って「やってしまいがちだが、やってはいけない」と思っているものがあれば、このようにまとめておくのもいいでしょう。

禁句)後述

著者としては最初から最後まで通読してもらうことを前提に執筆するのが普通ですが、とくにIT系技術書は拾い読みされることもまた多いと覚悟したほうがよいでしょう。

何らかのテクノロジーを解説するとき、知識を1つずつ積み上げて進められればよいのですが、ボタン1つの説明でも前提とする知識が多く、詳細を後回しにする場合がよくあります。

この場合、参照先は具体的に示しましょう。つい「~については後述します」と書いてしまいがちですが、「後述」ではどこを参照すればよいのか分かりません。具体的に次のように書きましょう。

アイコンを変える手順は、「5-3-1 アイコンの変え方」を参照してください。

参照先が同じ見出しの中であっても、次のように書けば読者に安心して読み進めてもらえます。

アイコンを変える手順は、本項の中で紹介します。

文章としてはやや不自然な印象がありますが、同じ見出しの中だから後述と書いていいだろうと思わずに明記することが重要です。ただし、そもそも1つの項の中で複数の話題を入れる構成のほうがよくありません。このような書き方が必要になった場合は、むしろ見出しを分けることを考えるほうがよいでしょう。

そうはいっても、執筆作業そのものを考えると、初稿から参照先を書き入れることは現実的ではありません。とくに目次構成をあとで変える場合はなおさらです。そこで初稿ではいったん「後述」と書いておき、脱稿前にチェックしてまとめて修正するのがよいでしょう。

ちなみにScrivenerでは、参照先をリンクとして本文中に配置すると、リンク先を挿入してくれる機能があります。章節項の番号をプレースホルダータグで挿入するように設定するとコンパイル時に最新の状態の番号を入れてくれるので、執筆中は気にする必要がありません。筆者は脱稿寸前まで章節項を入れ替えることが多いので、この機能には大変助けられています。

手順は拙著『Scrivener入門』を参照してください。Mac版Ver.3対応改訂版では「5-5-2 リンク」と「6-4-4 活用例:章節項の番号をつける」、Windows版では「5-8-2 リンクでほかの箇所へジャンプする」と「6-3-5 章の番号や連載の輪数を自動的に振る」に解説があります。

禁句)という

筆者自身もうっかり書いてしまうことが多いのですが、初稿の「という」は9割方不要です。削除しても意味が変わらなければ、削除しましょう。趣旨が変わらないのであれば、冗長な語句を削除すると文が引き締まります。

オプションの意味が分からないという場合は → オプションの意味が分からない場合は

セーブするという操作をしてください → セーブの操作をしてください → セーブしてください

「という」が必要なのは対象化することを強調するときです。その場合でも「という」を削除したほうが引き締まるケースがほとんどです。

コマンドに「-k」というオプションをつけて実行します → コマンドに「-k」オプションをつけて実行します

インテルという存在はIT業界にとって → インテルの存在はIT業界にとって

禁句)~するのは簡単です、~するだけです

企画や想定読者層にもよりますが、「~するのは簡単です」と言い始めたら、ほとんどの手順は「簡単」でしょう。そもそも簡単かどうかを評価するのは著者ではなく読者であり、著者はただ淡々と解説すればよいと思います。

ただし、比較するものが明らかであるなど、文脈からしてそのように書きたくなる場合もあります。たとえば、「ある結果を得るために、Aの方法を使うと10段階の手順が必要です。しかし、Bの方法を使うと2段階で済みます」という(*1)ような場合は、方法を変えると簡単になるという(*2)ことを強調できます。

*1 この「という」はカギ括弧に続く引用のようなものですから使う意味があります。

*2 この「という」は削除しても意味は変わらないので削除すべきです。このような書き方をしている原稿は少なくありません。

禁句)しかしながら

「しかしながら」と書いても間違いではありませんが、短く「しかし」と書いても意味は変わりません。短く済ませられる言い回しがあれば、そちらを採用しましょう。

それでもうっかり「しかしながら」と書いてしまったとすれば、そこで強調したいことが何かあったはずです。接続詞で強調するのではなく、強調したい内容を明示するほうが、意図がはっきりします。

禁句)つまり、要するに

初稿で「つまり」と書いても、たいていは詰まっていません。「要するに」も同様です。

会話で「つまり」や「要するに」が口癖になっている人がいますが、実際には詰まってもいないし、要してもいないことが多くあります。会話ではそれでもよいのですが、原稿では困ります。とくにIT系技術書では、意味のない冗長な言い回しは削除すべきでしょう。

辞書を引くと「つまり」には、「結論として」と「言い換えると」の2つの意味がありますが、辞書によっては「言い換えると」の意味は載っていない場合もあります。つまり(!)多くの読者はこのあとに短くまとめた結論が続くことを期待して読むはずです。端的な結論を書いたという自負があれば「つまり」と自信をもって書くとよいでしょう。

逆に言えば、きちんと文章を書き進めれば、「つまり」と書かなくても結論であることが読者にはわかるはずですし、削除したほうが文章としては引き締まります。ただし筆者としては「IT系技術書では接続詞を積極的に使って、論理展開をわかりやすくすべし」と考えるので、「つまり」は使うべきときに限って使うのがよいと考えます。

禁句)~すること

「~すること」は、ほとんどの場合、サ変動詞で短く置き換えられます。

保存することを実行してください → 保存を実行してください → 保存してください

そんな回りくどい書き方はしないと思うかもしれませんが、実際の原稿では頻繁に見かけます。正確を期そうとしているのだと思いますが、よほど手順や概念が難しい場合を除けば「保存してください」で話は通じるでしょう。

初稿はいいから推敲しよう

このような禁句集を作っても、実際にはうっかり書いてしまうことが多くあります。自分自身そうです。しかし、最初から完璧な原稿を書こうとして、結局原稿が進まないのでは本末転倒です。

最初は伸び伸びと書きやすいように書き、推敲で見直すことをおすすめします。(締め切りが迫っていなければ)文章は書いた後に読み直しできるのですから、10回でも20回でも見直せばいいのです。

結局のところ、推敲を徹底するのが最善の道と考えます。校正で直すのは面倒なので、できるだけ脱稿前に直したいものです。何度も推敲をしていれば、初稿から引き締まった文章が書けるようになるでしょう。

ところでScrivenerで残念なことの1つに、検索条件を保存できないことがあげられます。上の語句を登録して切り替えて検索できれば、脱稿前のチェックとして使えるのにと思います。コンパイルフォーマットで代用できそうな気もしますが、テキストエディタとApple Scriptを組み合わせるほうがラクで汎用性が高そうです。 【2021/10/23追記】やり方はいろいろありそうですが、コレクションに検索条件を保存して推敲する方法を思いついたのでS2に書きました。

Scrivenerのコレクション機能を推敲に使う

はじめての技術書ライティング―IT系技術書を書く前に読む本 (NextPublishing)

はじめての技術書ライティング―IT系技術書を書く前に読む本 (NextPublishing)

向井 領治
880円(04/26 17:55時点)
発売日: 2018/03/30
Amazonの情報を掲載しています

リンク先はアフィリエイトです。購入時に経由して頂くと、サーバー運営費などに充当させて頂きます。アマゾンではkindle unlimitedでも読めます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)